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大分家庭裁判所 昭和56年(少)6462号 決定

少年 S・U(昭和三七・二・二三生)

主文

この事件について少年を保護処分に付さない。

理由

本件送致事実は、

「少年は、昭和五六年六月二六日午後七時一八分頃大分市○○町×丁目×番×号○○前路上において、通行中の普通乗用車(○○××○××××号)からみだりに身体を出したものである」(罰条、道路交通法七六条四項七号、一二〇条一項九号、大分県道路交通施行細則一九条一〇号)というのである。

しかしながら、大分県道路交通法施行細則一九条の禁止行為は、道路交通法七六条四項七号の規定をうけて、定められたものであつて、「進行中の自動車から・・・・・・・・・身体を出す」行為とは、正当な事由なく進行中の自動車から身体を出すことによつて道路における交通の危険を生じさせ、または著しく交通の妨害となるおそれあると認められる行為でなければならず、また、「みだりに」身体を出したかどうかは、具体的状況により社会通念上判断するほかない。

これを本件について検討するに、○○○○、Aの司法巡査に対する各供述調書、Bの司法警察員に対する供述調書、司法巡査○○○○の「暴走族風の車両のハコ乗りについて」と題する○○○○からの口頭受付書(謄本)、証人○○○○、同A、同○○○△の各証言及び少年の当審判廷における供述を総合すると、

(1)  少年の友人A(当時二〇歳)は、普通乗用車(黒色スカイライン)を運転して大分市内繁華街の○○デパート前のスクランブル交差点に差しかかつた際、信号待ちのため同交差点手前の歩道上に佇んでいる三人の顔見知りの女友達を認めたので、これに向つて手を振つたところ、同女らも手を振つたため、運転席のAと助手席のB(当時二一歳)は腰を浮かして自動車の窓から腰のあたりまで上半身をのり出して手を振り、同女らに応えたこと。

(2)  その際、後部座席の右側に座つていた少年は、歩道上で手を振つている前記女性らに気付き、窓の上の安全グリツプを左手で握り、窓から顔を出したけれども、進行中の自動車から身体を出したのは少年の胸あたりまでであつて腰を浮かす迄の行為には出なかつたこと。

(3)  しかも、少年が進行中の自動車から前記のように身体を出したのは同交差点の手前約二〇米の区間であつて、自動車は時速二〇キロないし三〇キロで同交差点に差しかかり信号が赤に変つたため減速しつつ同交差点手前で停止したこと、

以上の事実が認められる。

少年の司法警察員に対する供述調書中「左手で車内の安全グリツプを握り、背中を窓わくの下に乗せ上半身が斜めになる格好で車の外に身を乗り出した」との記載部分は、前掲各証拠(とくに、目撃者である交通巡視員○○○○の司法巡査に対する供述では、「後部座席に乗つていた者が身を乗り出したかどうかは分らなかつた」旨述べている)と対比して信用できず、他に上記認定を左右する証拠はない。

そうすると、少年の行為は、とくに交通の危険を生じさせ、又は交通の妨害となるおそれはなく、「進行中の自動車からみだりに身体を出した」ことにはならないので、結局非行なしとして本件につき少年を保護処分に付さないこととする。

よつて、少年法二三条二項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 三村健治)

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